土壌カビを早期に検出し、カビ種を特定する研究を進めています。古墳近辺や奈良女子大学内の土壌から採取されたカビ数種を培養し、胞子の発芽、菌糸の伸長、胞子形成の各段階で発散するニオイ物質の定性・定量分析をイオン移動度分析計や質量分析計を用いて行いました。その結果、土壌に生息するカビは、生育の各段階で、異なる種類の物質を放散していること、その種類と濃度を計測することでカビの種類・生育段階を推定できることを見出しました。カビのニオイ発生のメカニズムの研究に取り組んでいます。
この研究は文化財科学の一分野としての微生物汚染・損傷の防止を目的とした研究をめざしている一方で、これまで未開拓の分野とされていた土壌由来の微生物に関する生理学、生態学という基礎研究分野をも発展できる可能性をあわせもっています。これまでに、「微生物由来揮発性代謝有機物質(MVOC)が成長制御物質さらには胞子形成や成熟、菌密度感知(クオラム・センシング)に関わる信号物質の可能性」という創造的な展開を進め得ることを見出しました。これは、従来のMVOCに対する見方が、「単に菌体から排泄される余剰な2次代謝産物にすぎず、もっぱら室内環境の汚染物質の一部である」であったのに対して、全く新規な価値を見出すことができたといえます。